お願いだからスタジアムで「ヘタクソ!」と叫ばないで欲しい

社会人になって経済的にも時間的にも余裕が出来て、週末はサッカーやバスケットボールの観戦に赴くことが増えた。ただしサッカーで言うゴール裏に行くような熱心なサポーターではなく、専らバックスタンドやアリーナ2階席で観戦する「三歩下がってついていく」タイプのファンであることを前置きとして言っておきたい。

 

ところで、Jリーグが2014年に発表した試合観戦者の平均年齢が40.4歳になったらしい件にも関連して言いたいのだけど、お願いだから中高年サポーターの皆様、どうかスタジアムでピッチ上の選手にむかって「ヘタクソ!」「バカヤロウ!」と叫ばないで欲しいのです。

2014年3月8日にさいたまスタジアム2002で行われた第2節浦和レッズサガン鳥栖の試合で、人種差別を意図した横断幕が掲出されたことにより、翌々節にJリーグ史上初めてとなる無観客試合の処分を下されたことは記憶に新しいが、それからというもの、スタジアムでの人種差別的言動や挑発的言動、暴力行為に対する取り締まりが厳しいものとなった。そういえばあるテレビ番組で「煽り合いもサッカー文化の一部」みたいな言説を口にしたあるチームのサポーターもいたけど、海外のクソみたいな人種差別をサッカー文化と言うのはあまりに時代に逆行した考えだと思うし、どんな小さな「煽り合い」だとしても、それが紛争の火種になることだってあることは理解しておいてほしいのです。そんなわけで魔法少女よしこ的には、そうしたJリーグのソーシャルフェアプレイの取り組みをサポーター各位はもっと重く受け止めるべきだと思うし、家族で楽しめる安心・安全なスタジアムづくりの理念の実現を願っているの。

 

だが。

気持ちはわかるの。応援するチームの選手がミスプレーをしたときーー例えばSBのクロスがワロスになったり、FWがQBKになったり、弾丸ミドルが宇宙開発したときに、「ヘタクソ!」とか「何やってんだヨ!」と叫びたくなる気持ちは、よしこにだって少しは理解できる。よしこだって2014年天皇杯決勝戦 ガンバ大阪対モンテディオ山形戦でキックオフ直後のファーストシュートがもしゴール枠内に入っていればと思うと、今でも悔しくて悔しくて涙で枕を濡らすことだってあったりなかったりするけれども、だからといって「ヘタクソ!」とか「何やってんだバカヤロウ!」と罵倒にも近い野次を飛ばすのは、本当にやめてほしい。

 

どうだろうーー例えばあなたが「ヘタクソ!」と野次を飛ばしたとき、隣の席で観戦している人がその野次を飛ばされた選手の母親や祖父母だったら、その人は胸を痛めずにいられるだろうか?あるいは近くの席でたまたまその野次を聞いた男の子がその選手の大ファンだったら、その男の子はずっとその選手の大ファンでいられるだろうか?あるいは前の席に来たのが初めてJリーグの試合を観にきた家族だったら、不愉快な思いをせずに試合観戦を続けられるだろうか?そしてまた試合を観にきたいと思うだろうか?ーー少なくともよしこは初めてスタジアムで試合を見たとき、近くの席のオジサン達が「ヘタクソ!」「バカヤロウ!」「何やってんだヨ!」と野次を飛ばしていて、試合を気持よく観戦することはできなかった。許されるならばそのオジサン達にカンフーキックを見舞ってやりたいくらいだった。少なくとも大人になった今、仮にサガン鳥栖豊田陽平を罵倒する奴がいたら俺はそいつを右フックで仕留めに行く。

 

今やJ3含めたJリーグへの参加チームは53にものぼり、都道府県の数より多い(ただし全都道府県にクラブがあるわけではない)。コアなサッカーファンや古参のサポーターだけがスタジアムに行くわけではない時代になった。日本代表を観に行くミーハーなファンだっているし、地元のチームだからなんとなく応援している若者だっている。いいじゃないか、それで。むしろそんな「なんとなく応援しているライトでミーハーなファン」にこそ、サッカーを好きになってもらってこそ、Jリーグのますますの発展が期待されるのではないかと。だからコアなサッカーファンや古参のサポーターには「バカヤロウ!」とは叫ばないでほしい。「あれ?あの遠藤航って人、ウチの街のチームの選手じゃん!知らなかったー!今度見にいこー!」みたいな些細なきっかけからJリーグに興味を持ってくれた人たちを、わざわざスタジアムから遠ざけるようなことはしないでほしい。「バカヤロウ!」と叫びたいくらいチームを愛しているのは理解できるけれども、スタジアムに来る人の雰囲気を見てスタジアムにまだ行きたいなとかもう行きたくないなと思うものじゃないのかなあ。 

「素晴らしいスタジアムを作るのはサポーターのみなさんおひとりおひとりです!!」というお決まりの常套句も、逆に言えば「サポーター一人ひとりが頑張らないと、素晴らしいスタジアムは永遠に作られない」とも言えるわけで、それは多くの地方クラブを応援するサポーターの憧れの的である松本山雅FCの観客動員数の推移を見れば明らかだ。観客動員数はある日突然増えることなどない。カンプ・ノウに集うFCバルセロナのサポーターだって、「ひとりのお客さん」が9万人集まっているに過ぎない。10人が100人に、100人が1,000人に、1,000人が5,000人そして10,000人に増えていくその過程は、クラブの経営努力が関与しているものではない。じゃあそうしたサポーター一人ひとりを「1人でも多く増やす」には、サポーターにどんな努力が必要なのか。

 

お願いだからスタジアムで「ヘタクソ!」と叫ばないで欲しいんだ。